インフルエンザワクチンって意味あるの?
第2回:体は敵をどうやって「記憶」するのか
前回は、不活化ワクチンが「感染力のない、安全な姿かたち(トゲ)」だけを体に見せる、というところまでお話ししました。今回は、その後、体の中で何が起きて抗体ができ、そしてその「記憶」がどのように残るのかを、登場人物ごとに追ってみます。
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最初に気づく「探偵」樹状細胞

体の中に入った不活化ウイルスを最初に見つけるのは、「樹状細胞」です。この細胞は、侵入してきたウイルスを取り込んで分析し、その特徴を「証拠品」として自分の体の外側に掲げて見せます。この働きを「抗原提示」と呼びます。こうして敵の特徴を仲間に伝えることで、他の免疫細胞たちが効率よく攻撃できるようになるのです。ちなみに、抗原提示をできる細胞は樹状細胞だけではなく、マクロファージやB細胞自身も持っている能力です。
指令を出す「コーチ」ヘルパーT細胞

樹状細胞が掲げた証拠を見て、「これは本物の敵だ」と判断するのが「ヘルパーT細胞」です。この細胞自身は直接ウイルスと戦うわけではありません。他の免疫細胞に「行け」と指令を出す、いわば司令塔のような存在です。
指令を受け取るB細胞

この指令を受け取るのが「B細胞」。B細胞は、将来「抗体」を作り出す力を秘めた免疫細胞で、普段は血液やリンパ節の中を静かに巡回しています。
B細胞自身も、自身の持つ受容体で敵の特徴をある程度見分ける力を持っていますが、それだけでは本格的には動き出しません。ヘルパーT細胞からの指令が合わさって初めて、本格的な活動を始めるのです。
記録係メモリーB細胞、工場の形質細胞

まだ何の経験も積んでいない素朴なB細胞が指令を受けると、そこから大きな変化が始まります。まず増殖して数を増やし、その多くが二つの異なる細胞に分かれていきます。それが「メモリーB細胞」と「形質細胞」です。
メモリーB細胞は、今回出会った敵の情報を詳しくノートに書き留めて、長期間体の中で保管し続ける「記録係」です。数十年単位で生き続けるとされています。(天然痘ワクチンでは、接種後60年経過した人からもメモリーB細胞が確認されたという報告があります。)
ただし、これはメモリーB細胞という仕組みの話です。インフルエンザウイルスの場合は、敵が毎年少しずつ変装(変異)してやってくるため、過去の記憶が通用しなくなってしまうこともあります。だからこそ毎年のアップデートが必要なのです。
加えて、メモリーB細胞自身は、普段は抗体を作りません。
抗体を実際に大量生産するのは、もう一方の「形質細胞」の仕事です。形質細胞は抗体を作る専用工場のような細胞で、体の中の「粗面小胞体」というタンパク質を合成する部分が発達して、大量の抗体を合成・分泌できるようになります。
つまり、記録する係と、実際に作って撃つ係で役割が分かれている、ということです。一度目にワクチンを受けたときは、形質細胞が主に抗体を作って、免疫の土台を作ります。
二度目は、なぜ速く決まるのか

その後、また同じ敵が体に入ってくると、今度はメモリーB細胞が目を覚まして増殖し、形質細胞に変身します。この二回目の反応は、初めての時よりもずっと速く、効率よく起こります。これが「二次応答」と呼ばれる仕組みです。追加接種、つまりブースターが効果的とされる理由も、この二次応答の速さにあります。
ここまでが、ワクチンを打つことで体の中に起きていることの全体像です。では、最初の質問に戻りましょう。
「半年しか効かない」という話は、結局どうなのでしょうか。
次回は、実際の研究データを使って、この論争に正面から答えていきます。
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◆参考文献
- Crotty S, Felgner P, Davies H, Glidewell J, Villarreal L, Ahmed R. Cutting edge: long-term B cell memory in humans after smallpox vaccination. J Immunol 2003; 171(10): 4969-4973.
- Murphy K, Weaver C. Janeway’s Immunobiology, 9th edition. Garland Science; 2016.
- Abbas AK, Lichtman AH, Pillai S. Cellular and Molecular Immunology, 9th edition. Elsevier; 2017.

