不眠症の薬が招く「体の不調」~世界が認めたラスカー賞受賞研究が、解決の鍵に?~

◆柳沢正史教授、ラスカー賞受賞おめでとうございます!! 
自称・医学論文マニアの僕も、先生の数々の論文や著作を拝見しており、いつも勉強させていただいております。 
今回の受賞は「オレキシンの発見」についてですが、実は、当院にお越しくださっている患者さんにも深く関係するお話です。

今日はそのことについて、コラムを書かせていただきたいと思います。 

◆整骨院と関係がある?柳沢正史教授の受賞 
「ノーベル賞に次ぐ権威」とも言われるラスカー賞と、町の整骨院に何の関係が?と思いますよね? 

実はこのオレキシンという物質、多くの方が経験する「不眠」と「睡眠薬の副作用」に深く関わっており、当院に通われている患者さんの中にも、無関係ではない方が一定数いらっしゃるのです。 

◆睡眠障害と肩・腰・膝の痛みのつながり 
睡眠は、日中に酷使した筋肉や関節を修復し、痛みを感じにくくするための大切な回復時間です。 しかし睡眠の質が低下すると、自律神経のバランスが乱れて筋肉が緊張しやすくなったり、痛みを感じる閾値そのものが下がったりすることが知られています。 

当院にいらっしゃる患者さんの中にも、「よく眠れていない」ことがきっかけで体調全体が崩れ、それが肩の痛みや腰痛、膝の痛みという形で表れているのではないか、と感じるケースが少なからずあります。 

◆ 睡眠導入剤と「薬剤性パーキンソニズム」
こうした不眠に対して、病院で睡眠導入剤を処方されている患者さんも多くいらっしゃいます。 実は、不眠治療の場面で処方されることのある薬剤の中には、「薬剤性パーキンソニズム」という副作用との関連が指摘されているものがあります。手足の震えや動きのこわばり、表情の乏しさといった症状が現れることがあり、加齢による変化と見分けがつきにくいことも少なくありません。

薬剤性パーキンソニズムは、睡眠導入剤そのものというより、不眠に伴う不安や気分の落ち込み、あるいは高齢の方の夜間の興奮などに対して処方されることのある一部の薬剤(抗精神病薬など)が関係していることが分かっています。 早期に気づいて対応すれば改善が見込めるとされているため、「歳のせいかな」と見過ごすことなく、気になる変化があれば処方医にご相談いただくことがとても大切です。

◆オレキシン受容体拮抗薬という新しい選択肢 
ここで冒頭のオレキシンの話に戻ります。 
柳沢教授の発見をもとに開発された「オレキシン受容体拮抗薬」(ベルソムラ、デエビゴなど)は、これまでの睡眠薬とは全く仕組みが違うお薬です。 

従来の睡眠薬の多くは、脳全体の働きを鎮静させることで無理やり眠らせるようなイメージの薬です。 そのため、長く使い続けると体が薬に慣れてしまい(耐性)、やめられなくなったり(依存)、急にやめると逆に眠れなくなったり(反跳性不眠)といった問題が起こりやすいことが知られています。 

一方、オレキシン受容体拮抗薬は、「眠らせる」のではなく「起きているためのスイッチ(オレキシン)を一時的にオフにする」というアプローチの薬です。 車に例えるなら、従来の薬が「ブレーキを強く踏んで無理に止める」タイプだとすれば、こちらは「アクセルを緩めて自然に減速させる」タイプ、というイメージです。 

この仕組みの違いにより、依存や耐性、やめた時の反跳性不眠が起こりにくく、より自然に近い眠りに導いてくれると考えられています。 また、ドパミンという神経伝達物質には作用しないため、理論上、薬剤性パーキンソニズムのリスクを伴わない安全性の高い薬と考えられている点も、大きな特徴です。 

実際、こうした特性を活かして、不眠治療の現場はもちろん、高齢の入院患者さんの「せん妄」を予防する目的でも研究が進められており、少しずつ臨床現場での活用が広がっている段階です。 

※「ドパミン」について: 一般的には「ドーパミン」という名称のほうがよく知られていますよね?でも正式な表記では「ドパミン」と表記することが多いです。 

◆今後への期待 
もちろん、薬の変更や中止はご自身の判断ではなく、必ず処方医・薬剤師にご相談いただくことが大前提です。

ですが、こうした新しい仕組みの薬が広まっていくことで、「眠れないから薬を飲んだら、今度は体が動かしにくくなった」という悪循環に悩む患者さんが減り、より安心して眠りと向き合える時代が来ることを、医療従事者の一人として心から期待しています。 

柳沢先生、あらためて、ラスカー賞受賞おめでとうございます。 

続きはこちら

※本コラムの執筆にあたっては、下記のいずれかに該当する、信頼性と権威性の高い機関や媒体が発信する情報・文献を参考文献として引用しています。
国際機関(UN, WHO, ILO, World Bank, OECD など)、政府・準政府機関(例:米国CDC、米国DOE、NASA、FDA、内閣府、厚生労働省、経済産業省、環境省 など)、グローバルコンサルティングファーム(McKinsey & Company, Boston Consulting Group(BCG), Bain & Company, Deloitte, PwC, EY など)、学術研究機関・大学(Harvard University, Massachusetts Institute of Technology(MIT), Stanford University, University of Oxford, 東京大学 など)、業界団体または著名なシンクタンク(Brookings Institution, RAND Corporation, Chatham House, Carnegie Endowment for International Peace, Gartner, Gallup など)、信頼性の高い学術雑誌・学術出版物(The New England Journal of Medicine(NEJM), The Lancet, Nature, Science, JAMA, Nature Medicine, British Medical Journal(BMJ)など)、権威ある学術データベース(Web of Science, Scopus, PubMed, JSTOR など)

※本コラムは一般的な情報提供を目的としており、具体的な治療や医薬品の使用については必ず専門の医師にご相談ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次