何もしていないのに、いつも首や肩が痛む…という症状はありませんか?
施術を受けてもすぐに痛みを繰り返す、という方は、もしかしたら TCH のせいかもしれません。
このテーマは2018年に院内でお配りしていた「院長コラム(No.534・535)」でも取り上げたことがありましたが、その後、世界中で研究が大きく進展しましたので、今回は最新の論文の情報も交えて、あらためて詳しくお伝えしようと思います。
首や肩の症状の原因となりうるTCHの正体
TCHとは “Tooth Contacting Habit(トゥース・コンタクティング・ハビット)” の略で、日本語では 「歯列接触癖(しれつせっしょくへき)」 と言います。
口を閉じているときに、上下の歯どうしが「いつも」軽く接触している状態、つまり 「歯を接触させるクセ」 のことです。
「えっ? 口を閉じたときに、上下の歯は接触しているのが普通じゃないんですか?」と思った方は 要注意 です。
会話や食事のとき以外は、上下の歯はどこも接触しないのが正常 なのです。食事で噛む・飲み込む・会話などで歯が触れる時間を全部合わせても、1日20分程度以内 とされています。それ以外の時間、歯と歯の間には1〜3mmほどのすき間(安静空隙)があるのが本来の状態です。


TCHは、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)を中心とする研究グループが、顎関節症の診療の中で気づき、名付けたものです。2006年に発表された論文では、TCHを 「口を閉じたときに、上下の歯が日常的に軽く触れていること」 と定義しています。
食いしばり・歯ぎしりとの違い
重いものを持ち上げるときなど、力を入れたときに「歯を食いしばる」人がいます。
しかしTCHの人は それとは違い、リラックスしているときでも、持続的に上下の歯が「軽く」接触している 状態です。強い力ではないので、本人はまったく気づいていないことがほとんどです。

【最新情報】世界では「覚醒時ブラキシズム」の一つとして研究されています
TCHは日本で生まれた考え方ですが、現在、国際的には 「覚醒時ブラキシズム(Awake Bruxism:起きている間の歯ぎしり・食いしばり類)」 という大きな枠組みの中で研究されています。

2018年に発表された国際的な専門家の合意(コンセンサス)では、覚醒時ブラキシズムを
「起きている間に、歯を繰り返し・持続的に接触させたり、下あごを固定したり押し出したりする咀嚼筋の活動」
と定義しています。つまり、強く食いしばるだけでなく、軽く「歯を接触させ続ける」こともこの中に含まれる ようになったのです。
さらに2023〜2024年には、ブラキシズムを多角的に評価するための国際的な評価ツール 「STAB(Standardised Tool for the Assessment of Bruxism)」 が発表され、日中の歯の接触も含めて、きちんと評価しようという流れになっています。
なお、寝ている間に「歯ぎしり(睡眠時ブラキシズム)」をしている人は、日中のTCHもあわせて疑ってみる価値があります。
スマホ調査でわかった「日中の歯の接触」の多さ
近年、イタリアの研究グループを中心に、スマートフォンのアプリで1日に何度もランダムに通知を出し、「今、歯はどうなっていますか?」とその瞬間の状態を記録してもらう という調査方法(エコロジカル・モメンタリー・アセスメント/EMA)が開発されました。

この調査の方法は、次のようになっています。
- 通知が来るたびに、参加者は今の状態を、次の5つから1つ選んで画面で答えます。
- あごの筋肉がリラックスしている
- 下あごを固定している(mandible bracing)
- 歯が接触している
- 歯を食いしばっている
- 歯ぎしりしている
- 通知は1日20回、ランダムな時間に来ます。5分以内に答えることになっています。
- 5つの状態の見分け方は、事前に教育用の動画で説明されています。
健康な若い人を対象にしたこれらの研究では、
- 起きている時間のうち、歯の接触や食いしばりなどの行動が見られた割合は平均で約2割強
- その中で 最も多かったのは「歯の接触」
という結果が繰り返し報告されています。
つまり、「歯を軽く接触させているクセ」は、ごく普通の健康な人にもかなり多い ということです。「自分は大丈夫」と思っている方も、一度チェックしてみる価値があります。
なぜ歯を接触させていると首や肩が痛くなるの?
上下の歯を接触させていると、おもに「咬筋(こうきん)」などのあごの筋肉が、弱い力でもずっと働き続けることになり、疲れやすくなると考えられています。
これを補うために、胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)や僧帽筋(そうぼうきん)などの首・肩まわりの筋肉も緊張するのです。僕の臨床では、首・肩まわりにとどまらず、全身の筋肉に張りがみられる方が多い印象です。

常に、軽く重量挙げをしている緊張状態 と言ったら、わかりやすいかも知れません。

強い力でなくても、「休みなく続く」ことが問題 なのです。筋肉は、強く使ってもその後休めれば回復しますが、弱い力でも休憩なしで使い続けると疲れがたまってしまいます。
【最新情報】あごと首の不調は「セット」で起こりやすい
2020年に発表された、複数の研究をまとめて分析した論文(メタアナリシス)では、次のことが報告されています。
- あご(顎関節症)の機能障害が強い人ほど、首の機能障害も強いという関連が見られた顎関節症の人は、押されたときの痛みの感じやすさ(圧痛閾値)が低く、首の動く範囲も狭い傾向がある
一方で、「首の骨の並び」や「頭の位置」には、統計学的に意味のある差は見られなかったとされています。
ただし、これは観察研究のまとめなので、あごの問題が首の不調の原因なのか、その逆なのかは、この論文からは分かりません。それでも、あごと首の不調が一緒にみられやすいことは示されています。
臨床での実感ですが、「歯のクセ」が残っている方は、首や肩の施術をしても症状が戻りやすい印象があります。
顎関節症の方には、TCH(歯の接触)が多いと報告されています。そして、あごと首の不調は一緒にみられやすいことが示されています。これらを合わせると、「歯の接触」「あごの症状」「首や肩の不調」が関連している可能性が考えられます。
TCHによって引き起こされる症状は
TCHとの関連が指摘されている症状には、次のようなものがあります。
- 顎関節症(あごの痛み・口が開けにくい・カクカク音がする)
- 頭痛(特にこめかみのあたりの緊張型の頭痛)
- 首や肩の痛み・筋肉の張り
- 歯がしみる・歯が欠ける・詰め物が取れやすい
- 歯周病の悪化、入れ歯が合わない など

【最新情報】顎関節症の人の約半数にTCH・覚醒時ブラキシズム
TCHを最初に報告した2006年の論文では、慢性的な痛みのある顎関節症の患者さん229名のうち、52.4%にTCHがみられました。さらに、
- TCHがある人は、痛みが長引きやすい(改善しにくい)
- TCHは 「片側ばかりで噛むクセ」や「細かい作業を長時間する仕事」 と関連している
ことも報告されています。
また2025年に発表された世界中のデータをまとめた分析でも、顎関節症の人の約50%に覚醒時ブラキシズムがある と報告されています。さらに覚醒時ブラキシズムは、ストレスや不安などの心理的な要因とも関連があると報告されています。
デスクワーク・スマホ・パソコン作業など 「集中しているとき」 に、知らず知らず歯を接触させている人が多いのです。
自分にTCHがあるかどうかを確認する方法
まず、イスに腰かけてリラックスした状態で口を閉じて みて下さい。

上の歯と下の歯がどこかで接触している ようであれば、TCHの可能性があります。
ほかにも、次のようなサインがあればTCHの可能性があります。
- 朝起きたときに、あごが疲れている・こわばっている
- 舌のふちに歯の跡(ギザギザ)がついている
- ほっぺたの内側に、歯の当たる白い線がある
- 集中しているとき、気づくと歯が当たっている
- 口を閉じて上下の歯を離すと、なんだか落ち着かない
TCH「歯列接触癖」への対処法は以下の3つです
- 舌の正しい位置 を理解する
- 口を閉じたときに 上下の歯が接触しない ように常に意識する
- リマインダー を活用する
① 最も重要なポイントは「舌の正しい位置」
舌の正しい位置 をご存じですか?
舌の先端 を、上あごの前歯の後ろ、少しボコボコでざらざらした位置(スポット)に当てます。
ここが 舌の正しい位置 なのです。
さらに、舌の先だけでなく、舌の中央全体を上あごにつける ようにしてください。

- 舌全体を上あごにつける
- 舌先だけを上あごにつける
TCHの人は、舌を正しい位置でキープしようとすると 「つらい」 という特徴があります。
舌の筋肉が弱っているため、舌が 下あごに降りてきている のです。中には常に 前歯を舌で押してしまっている ため、舌のふちに歯形がついている 人もいます。

② 上下の歯が接触しないようにする
正しい状態のポイントは、次の3つです。
正しい状態
- 舌は 前歯には当たらない
- 舌の 中央全体を上あごにつける
- 上下の歯が 接触しないよう、すき間をあける ように意識する
よくない状態
- 舌が 前歯に当たる
- 舌が 下あごに降りている
- 上下の歯が 接触している
合言葉は 「唇は閉じて、歯は離して、舌は上」 です。

③ リマインダーの活用
リマインダー とは、「思い出させてくれる人や物」 のことをいいます。
TCHは無意識のクセなので、「気をつけよう」と思うだけではなかなか直りません。そこで、気づくきっかけを生活の中にたくさん作る ことが大切です。
- 家族や誰かに「歯を離している?」と 声をかけてもらう
- ポストイット(付せん) に「唇は閉じて、歯は離して、舌は上」と書いて、パソコン・冷蔵庫・トイレ・車のハンドルなど、自宅や職場の 目につきやすい所に多数貼っておく
- スマホのアラームやリマインダーアプリ を使って、1日に何回か通知を出す

付せんを見て「あ、歯が当たっていた」と気づいたら、息を吐きながら肩の力を抜き、歯を離す。これを繰り返すうちに、だんだんと 「歯が当たると違和感を感じる」 ように脳が学習していきます。これは心理学で 「ハビット・リバーサル(習慣逆転法)」 と呼ばれる方法の考え方と同じです。

【最新情報】リマインダーの効果は研究でも確かめられています
- 日本で行われた ランダム化比較試験(2020年) では、顎関節症の患者さん30名を「メールで定期的に知らせるリマインダー」「付せんのリマインダー」「何もしない」の3グループに分けて比べました。その結果、日中に歯が接触している頻度は、何もしないグループに比べて、付せんのグループで少なく、メールのリマインダーのグループでさらに少なくなった と報告されています。
- 2023年の研究では、スマホアプリで「今、歯を食いしばっていませんか?」と問いかける方法と、身の回りの物に貼る「シール」を組み合わせると、アプリだけよりも効果的だった という結果も出ています。
- そして2026年に発表された、覚醒時ブラキシズムの対処法を総まとめにした システマティックレビュー では、リマインダー、バイオフィードバック(筋肉の緊張を機械で知らせる方法)、ハビット・リバーサルなど、「行動を変える」アプローチが、頻度や症状を減らすのに有効である可能性が示された と結論づけています。ただし、まだ研究の数や人数が少なく、「確実な証拠」と言えるところまでは至っていないため、今後さらに大きな研究が待たれる、とされています。
「デジタル(スマホ)」と「アナログ(付せん)」を組み合わせる のが、いちばんおすすめです。
プラスαで取り組みたいこと
最新の研究で、覚醒時ブラキシズムは ストレスや緊張と関連があることが報告されています。リマインダーとあわせて、次のことも意識してみてください。
- 1時間に1回は姿勢をリセット:パソコンやスマホを見ていると、頭が前に出てあごに力が入りやすくなります。
- 頬杖(ほおづえ)をつかない:ほおづえは、あごに負担をかける習慣のひとつとされ、顎関節症の診療でも「やめるように」と指導されています。
- 深呼吸で肩の力を抜く:ゆっくり息を吐くと、あごや肩の筋肉もゆるみやすくなります。
- 首・肩・あごまわりの筋肉の緊張をゆるめる:張って固まった筋肉をゆるめることで、正しい舌と歯の位置をキープしやすくなります。

こんなときは専門家に相談を
あごの痛み、口が開けにくい、あごを動かすと音が鳴る、歯がすり減る・欠けるといった症状がある場合は、まず歯科・口腔外科に相談してみてください。
首や肩の痛み、筋肉の緊張が続く場合は、当院にご相談ください。
まとめ
- 上下の歯は、食事や会話のとき以外は 離れているのが正常
- TCH(歯列接触癖)は、軽い力でも休みなく筋肉を使い続ける ため、あご・首・肩の痛みや筋肉の緊張の原因になりうる
- 現在は世界的に 「覚醒時ブラキシズム」 の一つとして研究が進んでいる
- 顎関節症の人の 約半数 にTCH・覚醒時ブラキシズムがみられる
- 対処のカギは 「舌の正しい位置」「歯を離す意識」「リマインダー」 の3つ
- リマインダーの効果によって、 歯の接触が減ったとの報告がある
今日からさっそく、パソコンの横に付せんを1枚貼ってみませんか?
「唇は閉じて、歯は離して、舌は上」。小さな習慣が、つらい首や肩の痛みを見直す第一歩となります。
「施術を受けてもすぐに痛みが繰り返す」 という方は、ぜひ一度 「歯のクセ」 も一緒に見直してみてください。
首や肩の痛み・筋肉の緊張について、私たちの整骨院では、筋肉の緊張をやわらげる施術や、ストレッチ方法、姿勢・舌の位置のアドバイスを行っています。お気軽にご相談ください。

参考文献
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https://adanews.ada.org/huddles/can-a-smartphone-app-and-stickers-control-possible-awake-bruxism

