薬剤性パーキンソニズムをわかりやすく深掘り~ラスカー賞研究が教えてくれる、薬と体の関係~

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薬剤性パーキンソニズムをわかりやすく深掘り

前回の「不眠症の薬が招く「体の不調」~世界が認めたラスカー賞受賞研究が、解決の鍵に?~」の続きです。

前回は、「不眠症の薬が体に思わぬ影響を与えることがある」というお話をしました。
今日は、その中でも出てきた「薬剤性パーキンソニズム」について、自称医学論文オタクの僕が、もう少し詳しく、わかりやすくお伝えしたいと思います。

◆そもそも「パーキンソニズム」って何?
パーキンソン病そのものではなく、パーキンソン病と似た症状が出ている状態のことを「パーキンソニズム」と呼びます。代表的な症状は、次の4つです。
・手足のふるえ(じっとしている時に出やすい)
・動きがゆっくりになる(歩くのが遅くなる、着替えに時間がかかる)
・体のこわばり(手足の関節が固くなる、表情が少なくなる)
・バランスの崩れやすさ(転びやすくなる) です。

このうち、お薬の副作用として起こるものを「薬剤性パーキンソニズム」と呼びます。パーキンソン病の次に多い原因とされており、決して珍しいものではありません。

◆なぜお薬でこうした症状が出るの?
脳の中には、体をスムーズに動かすための「アクセル役」と「ブレーキ役」の2つの物質があります。
・ドパミン……体を動かしやすくする「アクセル」
・ アセチルコリン……体の動きを抑える「ブレーキ」

普段はこの2つがバランスよく働いていますが、あるお薬は、脳の中でこの「アクセル役」であるドパミンの働きを弱めてしまうことがあります。アクセルが踏みにくくなると、相対的にブレーキばかりが効いた状態になり、動きが遅くなったり、体がこわばったりしてしまう~これが薬剤性パーキンソニズムの仕組みです。

◆パーキンソン病との一番の違い
一番知っていただきたいのは、この違いです。
パーキンソン病は、脳の中でドパミンを作る細胞自体が徐々に減っていく病気で、ゆっくりと進行していきます。
一方、薬剤性パーキンソニズムは、お薬がドパミンの働きを一時的に邪魔しているだけの状態です。

そのため、原因のお薬をやめたり減らしたりすることで、症状が改善することが多いとされています。これが、パーキンソン病との一番の違いです。ただし、症状に気づかないまま長い間そのお薬を飲み続けてしまうと、改善に時間がかかることもあります。ですから、「早めに気づくこと」がとても大切だと言われています。

◆どんなお薬が関係しているの?
すべての睡眠のお薬が対象というわけではありません。関係しているのは、主にドパミンの働きをブロックする作用を持つお薬で、具体的には一部の抗精神病薬(気持ちを落ち着かせるためのお薬)や、吐き気止めとして使われるお薬の一部です。こうしたお薬は、単純な「寝つきが悪い」という不眠だけでなく、次のような場合に選ばれることがあります。
病院での入院中に、
・頭の混乱(せん妄)を防ぐため
・認知症に伴う夜間の落ち着きのなさを和らげるため
・気持ちの落ち込みに伴う不眠のため
・脳卒中の後の情緒不安定を和らげるため

◆こんな変化に心当たりはありませんか?
専門的な診断は、もちろん医師にしかできません。ですが、一般的に知られている情報として、次のような変化が薬剤性パーキンソニズムのサインとして挙げられています。
・表情が以前より乏しくなった
・歩くときの腕の振りが小さくなった
・着替えや立ち上がりの動作がゆっくりになった
・手や指に細かいふるえが出るようになった
・体のこわばりが以前より強くなった


これらは「歳のせいかな」「疲れているだけかな」と見過ごされやすい変化です。もし、新しく始めたお薬の時期と、こうした変化が出てきた時期が重なっているようであれば、一度、処方された医療機関の先生にご相談してみることをおすすめします。

◆その悪循環を断ち切るかもしれない「新しい選択肢」
ここまで読んで、「不眠を治すために飲んだお薬で、今度は体が動かしにくくなるなんて……」と、少し不安になられた方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、明るい話題もあります。今回ラスカー賞を受賞された柳沢正史教授が発見された「オレキシン」という物質をもとに開発された「オレキシン受容体拮抗薬」(ベルソムラ、デエビゴなど)は、今回お話しした薬剤性パーキンソニズムの仕組みである「ドパミンの働きをブロックする」という作用を持たないお薬です。

そのため理論上は、このお薬によって薬剤性パーキンソニズムが引き起こされる心配は少ないと考えられています。「眠るために飲んだ薬が、動きにくさの原因になる」という悪循環そのものを断ち切る、新しい選択肢になり得るというわけです。

まだ研究や臨床現場での活用が広がりつつある段階ではありますが、一人の研究者の発見が、巡り巡って多くの方の「よく眠れて、よく動ける毎日」につながっていくとしたら、こんなに嬉しいことはありません。

柳沢先生、あらためて、ラスカー賞受賞おめでとうございます。

※「薬剤性パーキンソニズム」(厚生労働省のホームページより)
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1c47.pdf

※本コラムの執筆にあたっては、下記のいずれかに該当する、信頼性と権威性の高い機関や媒体が発信する情報・文献を参考文献として引用しています。
国際機関(UN, WHO, ILO, World Bank, OECD など)、政府・準政府機関(例:米国CDC、米国DOE、NASA、FDA、内閣府、厚生労働省、経済産業省、環境省 など)、グローバルコンサルティングファーム(McKinsey & Company, Boston Consulting Group(BCG), Bain & Company, Deloitte, PwC, EY など)、学術研究機関・大学(Harvard University, Massachusetts Institute of Technology(MIT), Stanford University, University of Oxford, 東京大学 など)、業界団体または著名なシンクタンク(Brookings Institution, RAND Corporation, Chatham House, Carnegie Endowment for International Peace, Gartner, Gallup など)、信頼性の高い学術雑誌・学術出版物(The New England Journal of Medicine(NEJM), The Lancet, Nature, Science, JAMA, Nature Medicine, British Medical Journal(BMJ)など)、権威ある学術データベース(Web of Science, Scopus, PubMed, JSTOR など)

※本コラムは一般的な情報提供を目的としており、具体的な治療や医薬品の使用については必ず専門の医師にご相談ください。

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